都市計画用語集-景観

景観

 景観とは「人の目で眺める風景」のことであり、街を構成する自然や建造物など、視覚で捉えられる風景である。ただし眺める人・対象・場所・季節・時間などによって景観は様々に変化する。
 また都市計画上、景観は町の共有資産であり全体としての調和が必要となる。海外などでは「家の外はみんなのもの、家の中は自分のもの」という格言があるように、各建物は個人の資産だが町全体の景観はその町のイメージや文化を表す共有財産である。

景観を構成するもの(景観資源)

自然景観構成要素 自然物 空、山、海、河川、湖沼、水辺、田園、森林、動物、植物など
人文景観構成要素 人工物 歴史的建物、橋、ダム、道路、港湾、集落、寺社、教会、塔、城跡、庭園、船舶、列車、自動車、看板など
自然人文景観構成要素 自然要素と人文要素が一体になったもの 渓谷を背景にした橋梁、丘陵と集落、海と航行中の船、森林と神社、山岳と史跡など
※そのほかに季節・時間の変化、人の往来・賑わいなど

景観把握モデル

  • 視点:環境を眺める人が立つ位置
  • 視点場:視点に立つ人の周囲の空間・状況
  • 視対象:視点から眺められる環境とその構成要素

視覚による景観

人が「よい(きれいな、自然な、バランスがとれた)」と感じる景観は、個人・文化的側面によるものもあるが、同じ人間という生物である以上、視覚などの性質からくる法則が一定程度存在する。

視覚の範囲

人の視野は水平から上下・左右それぞれ60度の広がりで物を識別している。その中でも特に水平方向に20度・垂直方向に10度(絵を描く際腕を伸ばして指でカメラのポーズをするときの指の内側程度の大きさ)に収まるものははっきりと識別できる。
 また同じ物体でも視点との角度、視点からの距離によって見え方は変化する。

  • 視点と支対象との角度
    • 仰瞰:銅像や遠くの山の眺めなど、視点から視対象を「見上げる」景観。
    • 俯瞰:山からの眺めなど、視点から視対象を「見下ろす」景観。自然な状態では視線は水平より下を向く傾向がある。

  • 視点からの距離(視距離)
    • 近景:木の枝の特徴までわかる距離。視点から500m弱程度。
    • 中景:山の斜面の個々の樹が見分けられる程度の距離。遠くても3km以内。
    • 遠景:個々の木々は判別できず「山」のシルエットとして認識する距離。

図と地

 ゲシュタルト心理学で、ある物が他の物を背景として全体の中から浮き上がって見えるとき、浮き上がって見えるものを図といい、背景になるものを地という。ルビンの壺の場合、壺の絵として見る場合は白い壺部分が「図」・黒い部分が「地」となり、顔の絵として見る場合は黒い顔部分が「図」・白い部分が「地」となる。

形をもつ、境界・輪郭をもつ、視点に近い位置にあるように見える、地に比べて印象的、景観では塔や銅像などのランドマークなど
形を持たない、境界・輪郭を持たない、図の背後にあるように感じる、景観では図の背後にある山並みや街並みなど

例:上の写真では富士山が「図」であり、空や木々が「地」となる。下の写真の場合、ビル群が「図」になり、富士山は「地」となっている。
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群化の法則

図が複数ある場合でも、その配置によって「まとまりがある」と感じることがあり、「群化の法則」という。

近接の要因 近くのものが一組になりやすく群化される。
類同の要因 形、色など同じ性質が似たもの同士は群化される。
閉合の要因 閉じられているものは群化される。
連続の要因 なめらかに連続するものは一つのまとまりとして認識する。
よい形の要因 平行やシンメトリーなど規則的なものはまとまりとして認識される。

景観上の配慮項目

 景観の場合、図となるランドマークなども重要だが、地としてのデザイン・統一感も重要となる。
 また多くの町の景観条例などでは、主に下記のような項目について規制をしたり配慮を求めたりしている。

配置・規模・高さ どこに建物・人工物を設置するか。図(ランドマークなど)への視界を遮っていないか。背景となる自然景観(山並みなど)を分断していないか。周辺の建物の高さ・規模等と連続性(統一性)があるか。
周囲との調和した(統一感のある)色彩か。単純な色彩だけではなく、明度(濃い/薄い)・彩度(鮮やか/鈍い)は統一されているか。
形・デザイン・材質 形やデザインは周囲と連続性があるか。自然景観の中に無機質(鉄・ガラスなど)な材質の建物を設置する際、適切な配慮を行っているか。

例1:長野県小布施町
「栗と北斎の町」をコンセプトに、行政に頼らない民間主体の自主協定である小布施町並み修景計画を制定、これに基づいて建物の移築や通りに面した建物の規模・様式・形・色の制限などを行っている。特別有名なものがあるわけではない町に年間120万人の観光客が訪れている。

例2:フィレンツェ
高さ・色が統一された伝統的建物が並ぶ中で唯一高さのある大聖堂は、町のどこからでも見えるランドマークとして、町のシンボルとなっている。
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ビスタ景・パノラマ景

両側に並木や建築物などが並んだ奥行きの深い眺めで「通景」や「見通し景観」などともいう。
19世紀のバロック式都市計画で、このビスタ景を多く取り入れられ、遠近法の消失点に当たる場所にアイストップ(視点を集めるランドマークなど)を設置する例も多い。

例:パリ・シャンゼリゼ通り、消失点に凱旋門があり、凱旋門に視線を誘導するように並木と高さ・デザインが統一された建物が並ぶ。
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一方、一定方向に視野を誘導するビスタ景に対し、水平方向に視野の広がりがある景観を「パノラマ景」という。山や展望台からの眺望、広い公園・自然景観などで見られる。

看板・電線

 巨大ディスプレイ、ネオンサインや電光看板を含む看板は、けばけばしい色・ネオンの明かり・視界に入ってくる文字情報の多さから、「雑多」・「ごみごみした」印象を与える。それらは繁華街の賑わいを象徴するものである一方、落ち着いた寺社仏閣・閑静な住宅街・自然景観には調和しないケースが多いため、都市美観の観点から色やサイズを規制するケースが多い。ニューヨークのタイムズスクエアは「意図的に」タイムズスクエアに限って派手な看板を認めているが、それ以外の地域では強い規制が実施されている。
 同じように電線は景観面ではランドマークなどの図への視界を遮る・ごみごみした印象を与えるなどの問題があり、景観以外にも防災・バリアフリー面での問題から地中化が推進されている。ただし地中化はコストが大きいなどのデメリットもあり、国内では主に幹線道路や歴史的街並み、バリアフリー重点整備地区などを優先して地中化が進められている。

例:熊本県黒川温泉
さびれた温泉街だったが派手な看板類を撤去し、建物も黒を基調とした落ち着いた色調に統一。結果、山あいの交通が不便な温泉街であるにも関わらず、温泉地人気ランキングで常に上位に入るほど人気の温泉地に変貌した。

スカイライン

山や建築物群などが空を区切ってつくる輪郭線のこと。都市の全体的な景観を表す人工的な地平線として捉えられることもあり、特に高層ビル群がつくるスカイラインは都市の個性や繁栄を示すものと考えられている。
景観上は、高い建物が山並みなどを分断していないか、メリハリのあるスカイラインになっているかなどに配慮が必要となる。

例:アメリカ・シアトルのスカイラインとマウント・レーニア
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身体感覚上の景観

額縁に入った絵画のような美しい景観がある一方で、景観は絵画とは異なり視覚以外の五感で感じるものや、場所・時間・行動など身体で感じるものにより変化するものでもある。

シークエンス景観

景観には、展望台などからの視点が固定された景観(シーン景観)とは逆に、街をぶらぶら歩く、公園・庭園のなかを廻る、動く車・電車から眺めるなどの視点が移動する景観があり、これを「シークエンス景観」という。

仮想行動

 景観を眺める際に、「あの丘に登るときれいな景色が見られそうだ」「あそこの水に手を触れると涼しくて気持ちよさそうだ」というように、実際にその行動をとるかは別として想像のなかで行動することを「仮想行動」という。
 仮想行動を誘発するために、丘へ続く道を見えるようにしたり、水へ近づける階段を設けるなどし、単に目に見える景観だけでなく想像上の心地よさを誘発する仕掛けを設けることがある。

変遷景観

 眺めるという行為は時間を伴う行為であるため、同じ視点からの眺めでも時間により変化・動きのある景観があり、これを「変遷景観」という。
 変遷には風で揺れ動く木々や行きかう人々、昼から夜への変化などの短い時間の変化から、四季による変化・年月の流れによる変化など長い時間の変化まで様々なものがある。

閉じた空間・開いた空間

 人が立っている空間には、囲まれ包まれているような感覚(囲繞感、いじょうかん)を与える「閉じた空間」と、広々とした開放感を与える「開いた空間」とがある。都市内部の広場や公園には「閉じた空間」が、自然を感じさせる景観には「開いた空間」がよく見られ、場所ごとに使い分けが必要になる。

にぎわい

 どんなにきれいに整備された公園でも人の気配がなければ不気味に感じるように、広場・公園・商業地区などには一定のにぎわいが景観上も求められる。
 そのうえで、景観として魅力的なにぎわいには、視対象となる人々が気持ち良く過ごしていること、視対象となる人々と自分がいる視点場が適度に区切られていること、などが必要になる。
 このため、人が快適に休めるベンチを設置したり、行きかう人々を眺めるオープンカフェを設置するなどの仕掛けを設ける場合がある。

意味上の景観

景観はただ直接的に見えるもの・感じるものだけでなく、個人のイメージ・思い出や、その地域や民族・国の文化的・歴史的意味や背景なども含めたものである。

イメージ

 人々が都市をどのようにイメージしているか研究したケヴィン・リンチは、都市のイメージの構成要素として以下の5要素を上げた。
 例えばインフラを設計する際には、それが都市のイメージの中でどのような役割を果たすべきかによってデザインも変化する(パスとして認識してほしい道路ならば街路樹を植え、沿道の建物のデザインを統一するなど)。

パス 連続した線状の要素 街路・鉄道・運河
エッジ 境界となる線的要素 川、崖、山際
ノード 節目となる点的要素 駅、交差点
ディストリクト 一つの広がりとして認識される面的要素 住宅街、繁華街、緑地
ランドマーク 方向や位置の手がかりになる点的要素 塔、高層ビル、山

伝統的景観

ある地域・民族・国に属する人々が歴史的・文化的に慣れ親しみ共通のイメージを持っている景観を「伝統的景観」という。ただ美しい景観というだけでなく、それに関連した文学・絵画・歴史などを思い起こさせたり、農村風景が「ふるさと」をイメージさせ高層ビル群が「都会」をイメージさせるなど、様々な形が存在する。

歴史的町並み 複数の歴史的・伝統的建造物が残り、それらが連続して建ち並ぶ景観。日本の場合、伝統的建造物群保存地区に指定され保存されている城下町・宿場町・門前町・寺内町・港町・農村・漁村などがある。
文化的景観 そこに住む人々の生活や産業により形作られた景観。棚田などの田園景観、漁村集落の景観、鉱山の景観など。これらの景観は生活や産業と密接に関わっているため、建物を残すだけでは保全が出来ず、そこに暮らす人々はライフスタイルもあわせて保全する必要がある。
産業景観 工場や工業地帯、港湾や鉄道などの交通施設などの景観も広い意味での文化的景観といえる。ユネスコの世界遺産でも明確な定義はないものの「産業遺産」として産業革命期以降の工場などの景観が多数登録されており、これらの中には現役で稼働するものも含まれている。

例:北海道小樽市
大正~昭和中ごろまで海運の町として栄え倉庫街が発展したが、モータリゼーションとともに一気に衰退し運河はドブのように扱われていた。一時は埋め立てて道路にする計画が持ち上がったが住民運動により中止、これを契機に運河の町として再生を図り、現在は道内でも有数の観光地になっている。倉庫群などは現在、市指定小樽歴史景観区域となっている。
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原風景、生活景

 国や民族以外にも個人レベルでの生活の記憶・思い出からイメージされる風景として、過去の思い出などからイメージされなつかしいと感じる「原風景」や、日々の生活の中で慣れ親しんだ日常的な風景としての「生活景」などがある。
 原風景や生活景は個人が感じるものであり、例えば土管のある空き地で子供が遊ぶ風景をなつかしいと感じる人もいれば、何も感じない人もいる。人によって様々であることから都市計画に反映させにくく軽視されがちである一方で、地域への関心や愛着を生む源泉でもあり、一定の配慮が必要となる。

景観緑三法

 国内では、戦後から高度経済成長期にかけて都市化や生活様式の変化により、歴史的な街並みが各地で消えていった。この流れから1960~70年代ごろから景観への関心が高まり、先進的な自治体では独自の条例を制定するなどして取り組みが進められてきた。これを受け、国は2004年に景観緑三法を制定した。

景観法

日本では高度成長期以降、建築基準法や都市計画に違反しない限りどのような形態の建築物でも建てることができる「建築自由の国」と揶揄される状況になっていた。
このような状況から都市・農山漁村における良好な景観の形成を促進するため、2004年に景観法が成立した。

景観行政団体

景観行政団体は、景観法に基づき、景観計画を定めることが出来る。
  • 政令指定都市、中核都市は自動的に景観行政団体となる
  • その他の市町村は、都道府県との協議・同意により景観行政団体となることができる

景観計画

景観行政団体が景観に関するまちづくりを進める基本的な計画として、景観上重要な施設の保全や、整備の方針、景観に関わる基準などをまとめる計画。
この計画により定められた区域内に建物を建てる場合には、定められた基準に基づきデザイン・色などの制限を受けたり、届出・勧告の対象となったりする。

都市緑地法

都市緑地保全法の一部が2004年に改正され、名称が「都市緑地法」に改称された。
都市緑地法では、都市の緑地保全や緑化の推進により良好な都市環境の形成を図ることを目的とする。

緑の基本計画

市町村が、緑地の保全や緑化の推進に関して、その将来像、目標、政策などを定める基本計画。以下のような内容を定める。
  • 緑地の保全、緑化の目標
  • 緑地保全地域、緑化地域内の緑地の保全
  • 都市公園の設置・整備方針

緑地保全地域、緑化地域

  • 緑地保全地域:里地・里山など都市の近くにある比較的大規模な緑地において、開発行為などを一部規制し緑地を保全する地域
  • 緑化地域:緑が不足している市街地などにおいて、大きな建築物の新築・増築を行う場合に、敷地面積の一定割合以上の緑化を義務づける地域

屋外広告物法

屋外に継続して多くの人に目につくよう掲示される看板、立看板、はり紙、広告塔、広告板、建物などの屋外広告物について必要な規制の基準などを定めた法律。
この法律により以下のようなことが可能となった。
  • 景観行政団体(市町村)による屋外広告物の基準策定・規制誘導
  • 違反した張り紙、立て看板の除去
  • 屋外広告業の登録制

  • 最終更新:2017-11-11 22:11:12

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